「サーキュラーエドノミー®︎」に見るまちづくりのヒント。亀岡・京都梅小路をめぐるサステナツアーレポ

「過去一番サステナブルだった時代は江戸時代」そんなことを聞いたことがある方もいるかもしれません。現代の私たちのビジネスや暮らしに活かせるヒントは、文化や産業、自然などあらゆる歴史の中に眠っています。今回はみんつな編集部では、「サーキュラーエドノミー®︎」の提唱者であり文化ビジネスコーディネーターの北林功さんと、京都の亀岡と梅小路の街を歩きながらサステナビリティのエッセンスを探して来ました!

今回案内してくれた方
北林 功 さん

COS KYOTO株式会社代表取締役、一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会代表理事、一般社団法人サステナブル・ビジネス・ハブ理事/リサーチャー。2013年COS KYOTO株式会社を設立し、リサーチや人材教育、体験を通じて学ぶツーリズム、地場産業のビジネスサポート、国際的な文化交流イベントの企画・運営など「文化ビジネス」のコーディネート事業を展開。 2016年より京都の地場産業の現場をオープンにして交流することで創造的な街を目指すために「DESIGN WEEK KYOTO」をスタート。

文化×創造性で社会をアップデート。京都の地場産業を世界とつなぐ北林功さん

京都を中心に「文化ビジネス」のコーディネート事業を展開している、今回のガイド・北林さん。エネルギー関連企業や人材育成コンサルタントを経て、地域の風土で培われた産業・無形文化に秘められたサステナビリティの叡智に気づき、それらを現代にアップデートして持続可能な社会の構築につなげるべく、大学院で文化ビジネスを研究したと言います。

2016年から主催している「DESIGN WEEK KYOTO」では、京都の地場産業の現場をオープンにして多様な産業の魅力を国内外に発信しつつ、地域が培ってきた叡智を学ぶツーリズムを起点に地場産業をさらに盛り上げるべく奮闘。毎年世界各地から多くの人々が訪れており、地域の創造性を高める重要なイベントとなっています。

COS KYOTO・北林功さん

江戸時代の知恵を現代に活かす「サーキュラーエドノミー®」とは?

北林さんの取り組みを象徴する言葉の一つ、「サーキュラーエドノミー®」。江戸時代の循環経済の社会の仕組みを現代にアップデートするという意味合いでこの概念を提唱しています。サーキュラーエコノミーというと「廃棄・汚染を出さない」「製品や原材料を使い続ける」「自然のシステムを再生する」などの原則がありますが、それがすでに体現されていたという江戸時代の社会に学び、

・「地域の恵みの範囲内で循環する仕組みを無理せず回す」

・「人と人とが交流・共創することを自然に促し、心を豊かにする」

・「先祖や子孫が誇りに思うような美しい景観・文化を未来に残す」

ことを「サーキュラーエドノミー®」の基本的な考え方として、現代社会への応用を目指しています。

出典:「エドノミー®」の3つの原則(仮)

実際にどのような実践が行われているのか、今回は以下の順序で京都の街を巡ってみました。

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サステナスポット①亀岡市│レジ袋「有料」ではなくレジ袋「禁止」の脱ブラごみ宣言
サステナスポット②三浦製材│森を守る製材所、木を生かす工務店が未来の建築を語る
サステナスポット③保津川│暴れ川がもたらした農作物や水運、自然と付き合う難しさと恵み
サステナスポット④梅小路クリエイティブタウン│次世代の起業家やアーティストが挑戦できる街づくり
サステナスポット⑤梅小路公園│子どもも大人も地元市民中心で手入れをして学び合う広場
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1. 始まりの地は、美しい自然を次の世代へつなぐ環境先進都市・亀岡

地場産業や人々の営みの場を通じて、これからのサステナブルな社会・まちづくりへのヒントを探しに行こう!ということで始まった今回のツアー。最初に北林さんと向かったのは、京都市のお隣、亀岡市。「保津川下り」で知られる保津川(保津峡)が中心を流れる自然豊かな美しいまちで、環境先進都市としても知られています。

「2030年までに使い捨てプラスチックごみゼロを目指す「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」を発表していて、なんと全国に先駆けてプラスチック製レジ袋禁止条例が制定されています。「有料化」ではなく「禁止」なので、皆さんしっかりエコバッグを持ち歩いているんですよ」

亀岡駅の構内には「プラごみゼロ」「環境先進都市」のフラッグ。駅のコンビニにもプラスチックのレジ袋はない

2. 森を守り木を生かす「三浦製材」が未来の建築を語る

亀岡駅から山林へ車を20分ほど走らせて訪れたのは、「三浦製材」。独自の加工技術を活かして、木材の持つ可能性を最大限に引き出し、無添加住宅の企画・設計・施工、そして森を守るプロジェクトまで展開する製材所・工務店です。今回は代表の三浦さんにお話を聞きました。

VS材木が並べられた製材所

「1952年に先代が創業し、小さい頃からずっと木材の近くで過ごしてきたわけですが、子どもながらに木材の香りや色、ツヤが失われていることを感じ、“木の科学者”として以来その原因を探ってきました。

1950年代に木材の高温乾燥技術が普及しはじめましたが、短時間で効率的に乾燥できる一方、木材の細胞を壊して色、ツヤ、香りを損なうだけでなく、アレルギー物質を発生させる可能性もあることがわかっています。無垢材を使い「健康住宅」を謳うハウスメーカーもありますが、木材の種類や乾燥方法によっては、シックハウス症候群の原因となる物質が発生してむしろ健康を損ねてしまうんですね。研究を続ける中で、低温で木材を乾燥させる「e-BIO(イービオ)」の開発に至りました」

三浦製材の代表・三浦享浩さん

「少しでも木材の価値を高め、国内の森を維持したい」

そんな想いで開発された「e-BIO」は、35℃という超低温で時間をかけて乾燥させることが可能で、木材の細胞を破壊することなく含水率をほぼ0%に加工できます。時間はかかりますが、木本来の美しさや香りを保ち、耐久性・耐火性にも優れており、重要文化財の条件をも満たす素材として評価されています。

「オランダからもサーキュラー建築家の方が訪れて評価していただき、現地での木造ビルプロジェクトに三浦製材の木材が使われることになっています。また、木材の軽さを活かして2030年には木製ロケットをつくりたい、なんて構想もあります」

三浦さんは、放置された山の木を再利用してサウナをつくる「亀岡里山サウナプロジェクト」などにも取り組んでおり、森林や木材に関わるきっかけを提供することでそこにある問題を多くの人々に知ってもらうべく尽力しています。

「木材・建築を取り巻く問題をなんとかしたい」そんな熱い想いと笑顔が印象的な三浦さん

3. 京都の繁栄を支えてきた「母なる川」と、人々がつなぐ水辺のまち

三浦さんに見送られ、続いて亀岡盆地へと向かいます。地形や歴史に触れながら、亀岡や京都の街の成り立ちについて北林さんに教えてもらいました。

「亀岡市内を蛇行して流れている保津川は、昔「暴れ川」と呼ばれていて、毎年のように氾濫を繰り返していたそうですが、その堆積土が丹波米のような恵みをもたらしており、水害に苦しみながらも土地を切り拓いて農耕を生業としてきました。そしてそんな人々の精神的な拠り所になってきたのが、これから向かう出雲大神宮です」

亀岡市内を蛇行して流れる保津川(大堰川)(Apple社のマップより筆者作成)

田畑の間を縫うようにしてたどり着いた出雲大神宮は、『徒然草』にも記録が残る、丹波地方随一の歴史を持つ神社です。

亀岡盆地の中心に位置しこの地で農耕に携わる人々の信仰対象となってきた出雲大神宮(写真は境内にある磐座〈いわくら〉)

「ここには滝があって、水が湧いてくる山など自然そのものをまつってきました。その麓にあるこの神社には本殿のほかに、水が乱れない(氾濫が起きない)よう神様が宿るとされる岩があります」

稲作に始まり、古くは京の街への水運を担っていた保津川。保津で木材を筏(いかだ)に組み替えて運び、平安京が建設されました。江戸時代には角倉了以がさらに川幅を開削し、多くの荷物が船で運ばれました。明治以降は列車がその役割を果たしたそう。それが、現在も嵯峨野から嵐山、亀岡をつなぐトロッコ列車です。

保津川下りなどの観光が栄え、自然との調和の中でその恵みを受けてきた亀岡では、保津川を「母なる川」として大切にし、それが清掃活動やプラごみの削減といった形で現在の環境活動につながっています。

「人の手を入れていかないと豊かな自然との調和はできない。一度人間が手を入れた以上、時代に合わせてアップデートしていかなければならないんです」と北林さんは話します。

北林さん(保津川にて)

4. 歴史とモダンカルチャーが交わる“ゲートウェイ”梅小路エリアへ

保津川は下流へ向かうと「桂川」と呼び名を変え、京都市内に入ります。一行は亀岡を後にし、京都駅近くの梅小路エリア(JR京都西梅小路駅周辺)を訪れました。北林さんによるとこのエリアは「丹波口」と呼ばれ、京都と丹波・丹後地域のいわばゲートウェイとしての役割を果たしてきたといいます。

「現在は梅小路を「クリエイティブタウン」化するという構想があります。この地域の文化や産業を活用しながら、デザインやアート、食に関わる人材と交わる場所や機会をつくることで文化イノベーションを起こし地域の魅力を高めることを目指しています」

遊休資産のリノベーションに見られる新旧の融合、官民連携、そして年齢や国籍の壁を超えた交流などを通じて、100年先も京都らしくあるためのまちづくりを行っているといいます。

梅小路エリアの「クリエイティブタウン」化構想(画像出典:梅小路まちづくりラボ

梅小路まちづくり、クリエイティブタウン化構想始動!(YouTube)

3Dプリンターなどを揃えたモノづくりスペースKyoto Makers Garage(右)など、クリエイティブ関連スポットが街中に点在している

5. にぎわいと、安らぎと、循環と。梅小路公園が目指す都会のオアシス

「梅小路クリエイティブタウン」構想の重要な位置付けとなっているのが、駅の南東に位置する梅小路公園。鉄道の基地だった場所に約30年前に誕生した緑豊かな空間で、多くの市民に親しまれています。

梅小路公園

そんな梅小路公園での象徴的な取り組みの一つが、生ごみの堆肥化。公園の一角にコンポストが設置され、京都音楽博覧会(京都音博)などのイベントで発生した食材の残りを堆肥に変え、花壇などで活用する「資源がくるりプロジェクト」が行われています。小学生と一緒に堆肥をかき混ぜたり、専門家が食品ロスについて教えてくれたり。そんな光景が見られるといいます。

梅小路公園内に設置されたコンポスト。イベントで出た生ごみがここで堆肥化された
生ごみからつくった堆肥の引き渡し式の様子(画像出典:Life Hugger

梅小路公園にはもう一つ、市民とともに公園の土中環境を改善しようというユニークな取り組みが行われています。「土中環境改善ワークショップ」が開催され、土中環境とコモンズの再生について学び、実際に土中の変化や動植物の変化を観察し、改善点を理解した上で作業に取り組むことで、自然の生態系を活性化することを目指しています。

「ツルハシを持って木の周りに溝を掘って杭を打ったり、枝や葉によって「しがら」を組んで微生物が活発に活動できるようにしたり。一度学ぶと自宅の庭でもできるので、皆さん一生懸命ですよ」

画像出典:Design Week Kyoto

「コモンズをみんなで手入れしていくということに意味がある」と話す北林さん。皆さんが作業したことによって木が元気になり、何年振りかに実がなったなど、目に見えてその成果がわかることもあるといいます。

「公園を自分たちの手でつくると愛着が湧きますからね。自分たちで手を入れるからこそ、公共のものであるし、なにより自然との触れ合いが楽しいという感覚が得られる取り組みを広げていきたいですね」

まとめ

伝統的な文化や産業、その背景にある歴史からサステナビリティに取り組むヒントを得ようと向かった今回のツアー。しかしそこには、自分が同じ土地で先人とつながり、そこに新しい風を吹かせる存在を招き入れることや、自らの手によってその街をつくっていく感覚を持てる場を創造していくことの大切さが秘められていました。皆さんも一度、自分にルーツのある街と自分自身との関係性を見つめてみてはいかがでしょうか?