“見えない世界”で、つながりを感じる。真っ暗闇のエンタメ「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」に行ってきた!
もしも世界が真っ暗闇だったら?もしも完全に何も見えない世界を生きていたら?そんなことを想像したことはあるでしょうか。
今回ご紹介するのは、東京・竹芝のダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」内にある、「見えない世界」での対話が体験できる「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」。ダイアログ・イン・ザ・ダークでは、いくら目を凝らしても何も見えない「純度100%の真っ暗闇」の中で、“見えない世界のプロ”である視覚障害者の方にアテンドしてもらいながら探検していきます。自らの手触りや耳に入ってくる音など、視覚以外さまざまな感覚を頼り、仲間とコミュニケーションを取り助け合わなければ先へ進むことはできないのです。
今回は、みんつな編集部や野村不動産グループのメンバーなど総勢8名でダイアログ・イン・ザ・ダークを体験してきました!
視界を奪われた世界で見えたのは…
真っ暗闇の世界に入る前に、手に「白杖(はくじょう)」と呼ばれる杖を携えます。その先端から伝わってくる振動を指先のように感じとり、杖が触れているものの形や硬さなどを把握します。
「暗闇の中では、見つけたものや感じたものを自由に言葉にしてみてください。とにかく声を出して、周りの方に『ここにいるよ』『足元に〇〇があるよ』と伝えてあげてください」と、視覚障害を持つアテンド(案内人)の“せとせっと”さん。暗闇の中では、目以外のあらゆる感覚を活用して仲間とともにゴールを目指します。
いざ暗闇に入ると、想像以上に何も見えない世界に皆驚き。
「どれだけ目を凝らしても、全く何も見えません」
前もってわかっていても、8人それぞれが、程度の違いこそあれ暗闇に対して不安を感じた様子でした。せとせっとさんの「とにかく声をかけて」の言葉の意味がよく分かります。
片手で白杖を持ち、もう一方の手で隣の人や壁・手すりに触れ、全方位に耳を澄ませ、声でコミュニケーションをとりながら一歩ずつ進んでいきます。果たして、真っ暗闇の空間で出会ったものとは…?
…と、ネタバレになってしまうのでここでは暗闇の様子を詳しくお伝えできませんが、暗闇の中では、目で見ないとその全貌が分からないようなものたちと出会っていき、ミッションをこなしていきます。いかに普段、目から入ってくる情報を頼りにしているかを痛感する瞬間の連続でした。
時には輪になったりゆったり座ったりしたりして互いの存在を確認しあい、気持ちを共有しながら、気づけば“冒険”が始まってから1時間ほどが経過。暗闇に入る前に想像していた以上に、全員が全員と触れ合い、助け合いながら気持ちが一つになる感覚がありました。
今回体験させていただいたのは、期間限定のプログラム「LOVE IN THE DARK」。眩しく感じるほどに明るい世界へ戻った後は、最後の“ミッション”として、「わたしにとっての“LOVE”」を言葉で表現し、それぞれにとってのLOVEをシェア。「思いやりを持ち、想像力を働かせること」「自分自身に向き合うこと」「肩書きを外し、素直な心で相手をリスペクトすること」そんな言葉が溢れかえる温かいひと時でした。
メンバーからは他にも、
・初めは「皆さんの足を引っ張らないように」と思っていたけれど、素の自分でいることができて、むしろリラックスすることができた。
・暗闇にいる方が、恥ずかしさがなくなり、勇気を出すことができ、助けてもらうことにためらいがなくなった。普段の職場でもこんな気持ちでコミュニケーションがとれたらもっと働きやすくなりそう。
・耳や鼻、手や足からの感覚が研ぎ澄まされるのに加え、「これはどんな形だろう?」と考える必要があり、想像力が増す感覚があった。
などの感想が出ており、「見えないこと」の体験というよりも、人と人とのつながりを再確認し、人との向き合い方を見つめ直すきっかけになったメンバーが多かったようです。
ぬくもりがあってこそ成り立つ、人と人との対話
ダイアログ・イン・ザ・ダークの感想をシェアした後、みんつな編集部の古川がアテンドのせとせっとさんにお話を伺いました。
古川:暗闇でのアテンド、ありがとうございました。今回の体験を通してさまざまな学びがありましたが、ダイアログ・イン・ザ・ダークで体験した方に「これだけは持って帰ってほしい」というものはありますか?
せとせっと:皆さんの感じ方はそれぞれ違って良いと思っています。その上であえてお伝えするとしたら、今回の暗闇での体験を通して心が動いたことや、これまで忘れていたような湧き起こってきた感情・感覚を大事にしていただけたら嬉しいですね。あとは、「自分はこのポイントが面白かったけど、他の参加者は違うところが面白いと思うポイントだったんだ」というような、他の方との違いも、心の中に持っておいていただけたらと思っています。
古川:他者との違いがあるというマインドを持ち続けるというのは大事なことですね。思い返すと、普段、職場の人や友人など身近な人とここまで向き合うことってなくて、実は私たちはそもそも他人に興味を持つということが欠落しているんじゃないかという気がします。
この体験が始まった瞬間に参加者同士が対等の立場になって、そこで初めて対話が成立して、他者に対する興味関心が湧き、人と人とのぬくもりを再発見することができました。よく考えてみると、皆でニコニコ語り合っただけなんですけどね(笑)
「不便」と「不自由」は違う
古川:障がいについて考える時、どうしても「支える」と「支えられる」という二項対立になりがちだと思います。サステナビリティを考えるときも「これが正しい」「これは悪」と二項対立になりがちで、何が正解なのかがよくわからなくなります。
せとせっと:そうですね。障がいについて言うと、「障がい者は常に困っていてほしい」と思われているような気がします。健常者から障がい者に対して「困っていることはありませんか?日常生活を送る上で一番困ることは何ですか?」という質問がよくあります。ただ、ここで思うのが、「別に困った人生は生きていないなあ」ということです。
世の中には不便なことが沢山ありますけど、不自由な人生を送っていないと私は思っています。ダイアログ・イン・ザ・ダークの体験においても、皆さんは暗闇の中でどうしたらいいかわからないという戸惑いや不便さはあるけれども、不自由なわけではない。「不便」と「不自由」を履き違えてはいけないと思っています。
古川:「不便と不自由は違う」ですか...。深いですね。
せとせっと:浜松町駅からこの施設に来るまでの間に、6車線もある大きな交差点があります。私たちが2020年に今の施設に引っ越してきたとき、その交差点にある横断歩道4つのうち、音の鳴る信号機が1つしかありませんでした。そこで、横断歩道を安全に渡ることができるように音響式信号機を設置してほしいと行政にお願いしてきました。その過程で、ありがたいことに私たち以外にも色々な方が声を上げて動いてくださったおかげで、約2年後にはその交差点全ての信号機が音響式になりました。
こんなふうに、街はゆっくり変わっていくのですが、街がゆっくりと変わっていくより先に、人が変わっていきます。たとえば私たちが今の施設に通勤するようになってから、白杖を持った人が大勢横断歩道を渡るようになりました。その光景を見て、声をかけてくださる人が増えたんです。まず人が変わって、街が少しずつ変わっていって、その結果誰もが住みやすい街になっていくんだなと思います。
古川:街はゆっくりとしか変えられない部分があるのですが、人は変わろうと思えばすぐに変わることができますね。まちづくりに携わっている私たちが伝え方を変えることで人が変わり、物理的な部分はなるべく早く変わっていくように努力することが私たちの役割だと感じます。
「見えない」ことによって見え方が変わる
古川:「やらなきゃ」「変えていかなきゃ」というプレッシャーはあるものの、実際に何から手をつけて良いかわからなくなることがあります。
せとせっと:まず変えやすいのは「見え方」だと思います。ダイアログ・イン・ザ・ダークもそうですが、体験することによって今までと劇的に変わるわけではないものの、何かが少し変わる。その「少し」がすごく意味があることなのだと思います。もしかしたら人の手に触れることに対して安心感を覚えた人が、何かあったときに人に手を差し伸べることができるかもしれませんし、匂いが印象的だった人は今日のごはんの匂いが美味しそうだなと感じることもあるかもしれません。それだけで人生は変わると思うんです。その一人ひとりの何かが動き出せば少しずつ何かが変わる。その小さな変化が合わさると、自然と街も変わっていくんだろうなと思います。
古川:「見えない」ことによって見え方が変わるという、一見すると相反するようにも見えるのですが、新たな気づきが得られたように思います。
せとせっと:私が犬と一緒に生活を始めた時に、「意外と小型犬を飼っている人が多いんだ」という気づきがあったり、犬を連れている人と仲良くなったりと、街中で犬や犬を連れている人が急に見えてくるようになりました。これまでとは全く違う街の姿でしたね。何かを始めるだけで街の捉え方がすぐ変わっていき、自分の感じ方も変わってきました。
古川:意識して見ようとするか、さりげなく見ているか、の違いですね。
せとせっと:そういったことが見えてくると、さらに知りたくなってもっと変わっていくと思うんです。できないところを探すよりも素敵なところを探す方が面白いですし、可能性がより広がって豊かだなと思います。そういった意味でも、ここでの体験が誰かの変化のきっかけになったら良いですね。
「見えない」を体験することで、日常での物の見方や見え方が変わってくる。ダイアログ・イン・ザ・ダークはそんな変化をもたらしてくれる場所でした。ダイアログ・イン・ザ・ダークは、ブルーフロント芝浦からも徒歩で行ける場所にあります。皆さんも、ぜひ身近な大切な人や職場の仲間などと体験してみてはいかがでしょうか?
<ダイアログ・イン・ザ・ダーク>
アトレ竹芝シアター棟 1F
ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」
東京都港区海岸一丁目10番45号