野村不動産グループCOOに聞くサステナビリティ【前編】
野村不動産グループは、2050年に向けたサステナビリティポリシー「Earth Pride ー地球を、つなぐー」を策定。「人間らしさ」「自然との共生」「共に創る未来」の3つのテーマをベースに、人(社会と社員)の幸せと持続可能な地球(気候変動と自然環境)との両立を目指して事業を推進しています。このサステナビリティに関わる考え方は、当社の事業の歴史とどのように関わっているのでしょうか。グループの中核である野村不動産代表取締役社長で、野村不動産ホールディングスCOOの松尾さんに聞きました。
- お話を伺った方
- 野村不動産ホールディングス グループCOO/野村不動産 代表取締役社長 松尾 大作
1988年、野村不動産株式会社入社。ビルディング事業部長、関西支社長、住宅部門長などを経て2021年に同社代表取締役社長に就任。野村不動産ホールディングス副社長、グループCOO(最高執行責任者)も務める。鹿児島県出身。
フルオーダーメイドで培った「人に寄り添う」ビジネスのあり方
野村不動産は1957年の創業以来、鎌倉・梶原山の大規模ニュータウン開発を皮切りに、BtoCの住宅事業で実績を積み重ねてきました。画一的な間取りや仕様で住宅が大量に供給された時代にあっても、お客さまと社会のニーズに寄り添いながら特色ある住宅を提供してきました。こうした姿勢は、当社のサステナビリティポリシーや各地で展開しているプロジェクトにも色濃く表れています。
―お客さまと社会のニーズを捉え、ビジネスを通じてお客さまの人生や社会を豊かにするという「野村不動産らしさ」はどのようなプロジェクトで表れていると思いますか。
私たち(野村不動産)は創業まもなくして、戦後の住宅難解消を目指して「鎌倉 梶原山住宅地」の開発に着手しましたが、以来、ディベロッパー事業を展開してきています。途中バブル崩壊などもあり、東京・大阪・名古屋の三大都市圏にリソースを集約させ、住宅事業を核に現在の流れを作って来ました。この点は他の大手ディベロッパー各社とは少し異なる経緯があります。
2002年にマンションブランド名を「プラウド」に統一して今に至るまで進化させてきましたが、それ以前の2000年に始めたオーダーメイドマンション事業は、当社のサステナビリティを語る上で非常に特徴的だと思っています。
マンションのオーダーメイド対応と言うと、通常は間取りの変更、例えば2つの部屋を1つにするなどといったこと(セレクト対応)が一般的であり、各社もやってきていましたが、わかりやすく言うと水回り部分は基本的に固定されていました。 そのため、マンションの場合どうしても間取りや仕様設備が画一的になってしまい、お客さまの希望や要望にあったお部屋を提供することが難しい現状がありました。
そのようなお客さまの期待に応えることができないか、この点に端を発し、当時の副社長を中心にフルオーダーメイドの検討を進めることになりました。当初設計や施工の調整に難航することもありましたが、実現への強いこだわりをもって取り組んだ結果、水回りを含め間取り変更可能な商品開発に至りました。正直なところ、建設施工会社や行政窓口との交渉やお客さまとのやりとりなど開発、建築、営業の担当者それぞれに相当な負荷がかかったことと思います。それでもお客さまにとっての付加価値となることを信じて5年、10年と続けていくうちに当社の代表的な商品になったと自負しています。
そして、オーダーメイド実現に挑む過程の中で学び得た経験やノウハウを活かし、現在においては、床下空調システムで環境に優しく心地よい暮らしを実現する「床快full(ゆかいふる)」や、サイフォンの原理を利用して間取り変更の可能性を広げる「ミライフル」といったコンセプトを打ち出し、実装しています。
これらは、今でこそ人や環境に配慮したサステナブルな取り組みだと言われますが、元をたどればお客さま一人ひとりに寄り添い、お客さまの視点に立って必要な機能・性能を追求していった結果ではないでしょうか。このような「人に寄り添う」姿勢こそが、私たちのDNAあるいはありたい姿としてのサステナビリティの原点だと思います。
プロジェクトを通じて地域を元気づけ、新たな価値をもたらす
こうした住宅事業での試みは、現在の住み心地を追求するとともに、将来家族構成が変わった時の間取り変更までケアしていくところに当社の独自性が出ているのだと思います。単に売って終わりではなく、売った後のお客さまの暮らしに寄り添い続け、さらにはお客さまが住む街のコミュニティに愛着がもてるような街づくりにつなげていこうとしています。
-徹底的にお客さまに寄り添う姿勢が地域やコミュニティにもよい影響をもたらした具体的なプロジェクトには、どのようなものがありますか。
2014年に竣工した「ふなばし森のシティ」(千葉県船橋市)ですね。約1500戸の住宅に加えて、商業施設や医療施設、保育施設、公園・緑地を備えた都市型コンパクトタウンで、最新鋭の環境対応や住民主体のコミュニティづくりが評価されてフランス政府住宅・持続的居住省が推進するエコカルティエ認証(環境配慮型地区認証)を、フランス国外では世界で初めて取得しました。
当社も時代とともに大規模マンションを手がけるようになりましたが、その多くはセキュリティを重要視した、地域の方から見れば閉ざされたコミュニティ、いわゆる「Gated City」のようになってしまいました。その結果、マンションにご入居されるお客さまと従来から周辺にお住まいの方々との接点が少なく、地域との連携が図れないばかりか、入居者間のコミュニティ形成にも支障が生じているように感じていました。
一方、「ふなばし森のシティ」では当社社員が黒子になって、街全体をどのようにして活性化していくか考えながら色々と仕掛けていきました。その結果、住民の方々が見事に反応してくれて、助け合いながら共生している姿を見た時には、これが本来のあるべき姿だと感じられて本当に心打たれました。
マンションができたことで地域が元気になって、そこに住む人たちのシビックプライドにつながるといいですよね。こうしたことは短期的には収益を生みませんが、やり続けることで「野村不動産のマンションっていいね」と回りまわって評価が上がる。言ってみれば漢方薬のようなものだと考えています。
今後、少子高齢化によって人々の孤立が進もうとしている中で、地域コミュニティがますます大切になっていきます。「ふなばし森のシティ」での経験が転機となって生まれた、地域密着・住民主体による当社の街づくりの考え方「BE UNITED構想」は、その後竣工した「プラウドシティ日吉」「プラウドタワー亀戸クロス 」にも活かされています。日吉では多世代が交わり合えるようになっていて、夏祭りには私も足を運びましたが、とても良い雰囲気で楽しかったです。
もう一つ、当社の中規模オフィステナントビル「PMO」も当社らしい事業です。大規模ビルと同等の機能性と快適性、デザイン性を備えたオフィスを提供することで、スタートアップといった活力のある多くの伸び盛り企業における優秀な人材の確保、従業員のモチベーション向上といったニーズに応えています。東京都内には旧耐震基準の古い雑居ビルがまだ多いので、そこを変えていきながらエリアに新しい価値をもたらすという意味で社会貢献につながっているのではないかと思っています
企業集団としてもサステナブルであるために
当社は今後、2030年に向けてサステナビリティポリシーで示された重点課題(マテリアリティ)に対して、さらに取り組みを加速させていくことになります。
-これまでの取り組みを踏まえて、どのようなことに注力していきますか。
サステナビリティは、気候変動への対応に始まって、対象は非常に幅広いものです。温室効果ガスの排出削減など、各社共通で数値目標をクリアするのは当たり前のことです。その上で、地味かもしれませんが人に寄り添うことをベースにしながら地球をつないでいくために、公共財に近い住宅や空間というものを提供している以上、当社自体が企業集団としてサステナブルでいなければなりません。2025年には中期経営計画を刷新しますので、当社がどのようにサステナブルであり続けるかについてはしっかり打ち出していきたいと考えています。
ここまで、野村不動産のこれまでの軌跡が当社グループのサステナビリティの考え方にどのようにつながり、各地のプロジェクトに反映されているか、COOの松尾さんに話を聞きました。インタビュー後編では、野村不動産グループが挑むサステナビリティに関わる大型プロジェクトである「BLUE FRONT SHIBAURA」と、「森を、つなぐ」東京プロジェクトに込められた思いを聞いていきます。後編記事はこちら!