「地球も、危機感も、次の世代へつないでいく」野村不動産グループCEOに聞くサステナビリティ・後編

「地球の生き物も大事なステークホルダー!野村不動産グループCEOに聞くサステナビリティ・前編」では、野村不動産グループCEOの新井聡が考える、当社グループのサステナビリティポリシーに込められた思いやあるべき姿について、サステナビリティ推進部の松原が聞いていきました。つづく後編では、新井の幼少期のエピソードにも触れながら、これからサステナブルな社会を実現していくために必要な視点について考えていきます。

ー資源や地球の生物など、ステークホルダーを広げて捉えることが大切だというお話がありました。日々の業務や生活において具体的にどのように意識づけていくといいか、ヒントはありますか?

まずは、身近な人の幸せを考えることから始める、ということでしょうか。「自分の幸せよりも人の幸せを」と考えるのはなかなか難しいのですが、私はせめて家族や一緒に働く人など、周りにいる人のことは幸せにしたいですし、できるだけ多くの人に幸せになってもらえるようにできる限りのことをしたいと思っています。そして、何らかの機会に自分と接する人も幸せにしたい、できれば自分の存在が社会全体の幸せにもつながっていけばいいなと考えています。

この考えを皆さんに押し付けるつもりはありませんが、このような想いを持ちながら働くなかで「自分一人の行動で幸せにすることができる人の数には限りがある一方で、企業において組織的に行動すれば、より多くの人を幸せにできるだけでなく、多くのステークホルダーを豊かにできる可能性がある」ということに気づきました。

そして、企業で働きながらそれを実現するためには、まずは周りの人やステークホルダーにとって何が幸せなのか?何を求められているのか?ということを一度立ち止まって考え、丁寧に向き合うことが重要なのだと思います。そのような活動を多くの役職員がさまざまなところで行い、それが拡大しながら続いていく、そんな状態になっていれば企業全体としてもサステナブルになるんじゃないかと思うんですよね。

ー私も、身近にいる大切な人たちのことから考えてみたいと思います。

ー続いて、“地球人として”の新井さんにお聞きします。身の回りで感じている地球環境の変化はありますか?また、後世の子供たちに残していきたいものがあれば教えてください。

私は来年60歳になりますが、自分が子供だった頃を振り返ってみて感じる環境変化についてお話ししようと思います。私は小学4年(1975年頃)まで川崎市の二子新地という場所に住んでいましたが、当時は多くの梨畑があり、雑木林等も残っていて、多くの昆虫や鳥を見ることができたんですよ。近所の川では魚釣りもしていました。

当時の二子新地には舗装されていない道路も多く、下水道も整備されていないエリアもありましたが、振り返ってみると実は不自由は感じていませんでしたし、近所の子供たちと自然の中で遊ぶこともできたわけで、ある意味で豊かな生活ができていたように感じています。最近、久しぶりに二子新地に行ってみたのですが、梨畑や雑木林は一切無くなっていて、少し寂しい感じがしました。

私の子どもの頃の話はずいぶんと昔の思い出ですし、現代の都市環境の中に梨畑や雑木林を、というのは難しいのかもしれませんが、できれば多くの昆虫や鳥が生息する自然環境を少しずつ取り戻して、未来の子どもたちにつないでいけたらいいなと考えています。

現在の二子新地周辺

また、当時と比べて地球環境問題に対する見方も変わってきていると思います。私が小学校の頃にはオイルショックがあり、当時は石油資源の枯渇が深刻に懸念されていましたが、最近の調査では石油の可採年数は50年を超えて増加傾向にあるようで、当面は無くなることを心配する必要がなくなったのかもしれません。その一方で、石油については、使えば使うほど地球を温暖化させるというもっと重大な問題に私たちは直面しているのです。

そして最近、私が気になっているのは、気候変動に関する議論が「脱炭素」にばかりフォーカスされ、気候変動の影響を含む幅広い環境問題にあまり目が向けられていないということです。生物多様性もこの50年で70%近く減少しているとのことですし、2048年には海から食用魚がいなくなると言われる等、実は、地球とそこに住む人類には50年前とは比べられないほどの多様な「危機」が近づいているように思います。地球温暖化への対応は喫緊の課題ですが、それ以外にも対応していかなければならないことが数多くあるという意識、そのような「危機感」も未来の子どもたちにしっかりと引き継いでいくべきだと考えています。

ー「危機感も未来へ引き継いでいく」というのはサステナビリティを考える上で一つのポイントになりそうですね。新井さんがサステナビリティに向き合い続けるために身近なエピソードがあれば教えてください。

すごく身近な話になりますが、生命の力を感じたエピソードがあります。1年ほど前、当社の本社・新宿野村ビル1階で苔玉に植えられたガジュマルやコーヒーなどの植物を購入したんです。最初は苔玉のまま育てていたのですが、苔玉の中におさまっているとしんどくなってきたようで、元気がなくなってきたので半年ほど前に鉢や土を買ってきて植え替えたところ、たちまち元気になって今もどんどん成長しています。

いつも会社に来るとその3つの鉢を楽しみながら見ているのですが、その成長ぶりに驚くとともに癒されています。苔玉から鉢に移したことで、日当たりが十分ではない室内でもすくすく育つようになりました。植物の生命力、復元力に感銘を受けましたし、これまでになかった感情に不思議な心地がしています。

また、個人的には今まで意識したことがなかったのですが、植物を見ていると心が落ち着く感じがしますし、人が気持ちよく働ける環境のヒントってそういうところにあるのかもしれないなと思うようになりました。

ーこの春からグループではサステナビリティを野村不動産グループ全員で取り組んでいくプロジェクト「みんなで、つなぐ!」も始まりましたが、どんなプロジェクトにしていきたいですか?

とにかく「楽しい」プロジェクトにしていきたいですね。サステナビリティというと、どうしてもカタカナの言葉や数字の話が多く出てきたり、遠い未来の視点も必要だったりと、身近に感じられないことも多くあると思います。ですが、実はサステナビリティに接する機会は常に身の回りにあるわけですし、サステナビリティに取り組むことはステークホルダーの幸せを考えることでもあります。これは本来「楽しい」ことのはずなのですから、私自身がそれに取り組むことを楽しもうと思います。

私自身の行動を省みると、これまでサステナビリティへの取り組みが十分であったとは言えませんが、このプロジェクトをきっかけにして、考え方や行動を変えていきたいと思います。ここまでお話ししたように、私自身はどれだけ多くの人を幸せにできるのかという観点でサステナビリティへ取り組みながら、当社グループの活動を通じて多くのステークホルダーを幸せにしていきたいですし、未来の地球へも良い影響を与えていきたいです。そのためにもこのプロジェクトは皆さんと一緒に”みんなで”取り組むものにしたいと思います。

ー確かに、一人ひとりが楽しんで取り組んでいかないと続かないですよね。最後に、「Earth Pride 地球を、つなぐ」実現に向けて、野村不動産グループの皆さんに向けてのメッセージをお願いします。

当社グループが携わる不動産開発業において、自らの利益成長だけを追い求めてしまうと、地球の資源を費やし、環境に負担をかける可能性があるということを私たちはしっかりと自覚しなければなりません。その上で、そのようにはしないという覚悟と責任が必要だと考えています。

また、社員や私たちの生きる社会を豊かにしていくことができなければ、企業としての存在価値はなくなってしまうと思います。ともに働く社員のことはもちろん、社会を豊かにすることを目指して取り組む覚悟と責任も持たなければなりません。

そのような覚悟と責任の上で、「地球を、つなぐ」ことへの貢献という面においては、これから、様々な挑戦ができると思っています。グループ全体でサステナビリティを推進することはもちろんですが、個人でどんな貢献ができるかを真摯に考え、小さなことからでもよいので、できることからひとつずつ皆さんと一緒に行動することで、それを大きなうねりにしたいと考えています。

時に冗談も交えながら、気さくにインタビューに答えてくださった新井CEO
編集後記
みんつな編集部・松原明日香

今回インタビュアーを務めた松原です。最後までお読みいただき、ありがとうございます。

インタビューで印象的だったお話は、やはりステークホルダーの中に「地球やそこに存在する全ての資源やそこで生きる多くの生物」を入れて考えるということです。人間だけでなく“地球”からも選ばれ続ける企業でありたいなと思いました。

これから、「みんなで、つなぐ!プロジェクト」で様々な企画を展開していく中で、野村不動産グループのメンバーが、楽しくアクションを起こせるために、頑張っていきたいと思います。