「自分は受け入れられていると感じられるか?」違いを活かしあうことができる職場を本気で目指す(D&I推進担当役員・宇佐美直子さんインタビュー・前編)
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)というと、どのようなイメージがあるでしょうか?「男女の不平等を是正しよう」「異なる文化を受け入れよう」「障がいがあっても同じように生活できるようにしよう」そんなことを目指していくというイメージがある方も多いのではないでしょうか?気候変動問題と並んでサステナビリティの重要トピックとして声高に叫ばれるようになり、さまざまな企業が「女性管理職比率」「障がい者雇用率」などの目標値を設定して積極的に取り組んでいます。 野村不動産グループでも、「女性管理職層比率20%」「男女育休取得率100%」「1on1ミーティング実施率100%」といったようなD&Iに関する目標値を設定しています。しかし、それはあくまでマイルストーンであり、そこには明確な根拠や、その先を見据えたビジョンがありました。今回は、2022年にD&I担当役員に就任し、D&I推進のための方針・施策づくりに取り組んできた宇佐美直子さんへのインタビューをお届けします!
- お話を聞いた方
- 野村不動産ホールディングス 宇佐美 直子
1993年4月野村不動産入社、住宅販売部に配属され6年間22現場の販売を経験。1999年ビルディング営業部に異動、以降16年間テナント営業をしながら2000年と2002年に育休を取得する。2013年ビルディング営業二部長、2015年広報IR部長、2019年より執行役員としてホテル事業部・商業事業部を担当。2022年よりグループD&I推進担当となる。
「とにかく聞き、話す」ことから始まったダイバーシティ&インクルージョン
ご自身も2度育休を経験され、圧倒的に男性がマジョリティだった会社の中でもキャリアを積み上げてきた宇佐美さん。2022年にD&I推進担当役員に就任しましたが、ダイバーシティやインクルージョンなど、「人」というテーマに真っ向から向き合うのは入社以来初めてだったといいます。
―宇佐美さんにとってD&I推進はゼロからのスタートだったと伺いましたが、まず最初に何から始められたのですか?
ダイバーシティ自体は2013年ごろからグループとして進めてきたことではあったものの、それを具体的な計画に落とし込み、「インクルージョン」を実践していこうというのはこれが初めてだったんですね。「何にどう取り組んでいくか」に着手する前に、そもそも「ダイバーシティ」そして「インクルージョン」の定義とは何か、野村不動産グループにとっての意義は何なのかを明文化していくところから始まりました。
ーこれまで関わってこられた領域とはやることがガラリと変わりますよね。
野村不動産グループのD&I推進という役割を拝命したのが2022年の4月なのですが、人事の領域の仕事は初めて。これまでとは異なるミッションに少し戸惑いもありましたね。
ーそんな中で、具体的にはどのような作業から始められたのでしょうか?
スタート時は3人のチームでこのミッションにあたっていたのですが、その3人でいろいろと議論をして。「D&Iのことを私たち自身も社員の皆さんも語れるように、言語化してまとめよう」ということを最初のゴールとして取り組み始めました。
正解の書かれた教科書があるわけでもないですし、「とにかくいろいろな方に話を聞きに行こう!」ということで、さまざまな企業の方や大学の先生、さらには投資家や社員にもヒアリングを重ねました。
それから、取り組みを推進していく上で「応援団」の存在が重要と考えました。「社内で誰か応援団になってくれる人はいないかな」と意見交換を進めていくと、多くの役員の方から「自分もマイノリティの経験がある」「マイナスをゼロにすることも必要」といった応援のご意見をいただくことができ、背中を押してもらったと感じています。
2022年の4月から7月にかけてヒアリングや対話を重ねて、その中で見えてきたD&Iの真髄になる言葉をダイバーシティ&インクルージョン推進方針として言語化していく作業をしたんですね。推進方針案を7月のウェルネスD&I推進委員会(当時)に諮って議論し、9月末に最終的な形にまとまり、公開に至りました。
ーまさに、多様な人たちとの対話からできた結晶ですね。
はい。本当に多くの方とお話をさせていただきましたが、それがここに詰まっています。なぜD&Iが必要なのか、取り組むと何がいいのか、取り組まないと何が良くないのか、そもそも何をすればよいのかといった素朴な疑問に対して答えを出していって形になっているのがこの冊子ですね。
ダイバーシティ&インクルージョン推進方針に込められた想い
野村不動産グループは、2050年のありたい姿としてサステナビリティポリシー「Earth Pride 地球を、つなぐ」を掲げています。その達成に向けた2030年までの5つの重点課題(マテリアリティ)のうちのひとつが、「ダイバーシティ&インクルージョン」であり、「人と人とがお互いを支えつながり合う、誰ひとり取り残さない社会」、「背景や価値観の異なる人々が個性を活かし合う創造的な社会」を目指しています。その実現に向けた取り組みの姿勢を示した「ダイバーシティ&インクルージョン推進方針」に盛り込まれた内容や、そこに込められた想いについてお聞きしました。
ー「ダイバーシティ&インクルージョン推進方針」にはどのようなことが書かれているのでしょうか?
ダイバーシティ&インクルージョン推進方針は、
・「目的や位置付け(サステナポリシーや中長期経営計画の2030年ビジョンなどとの関係性)」
・「ダイバーシティ&インクルージョンの基本的な考え方」
・「推進方針の解説」
・「推進のロードマップとキーゴールの説明」
で構成しており、「ダイバーシティ&インクルージョンとはそもそもどういうことか?私たちが取り組む意義とは?」といったことをこの一冊で理解できる内容になっています。
お客様の生活スタイルや価値観、ニーズが多様化していくなかで、それらに真摯に向き合っていく姿勢が必要ですが、そのためには私たち自身が多様な視点を持ち合わせなければなりません。ダイバーシティ(=多様性)には、人種や年齢、身体的特徴といった目に見えるものだけではなく、性的指向や宗教、ライフスタイル、さらにはそれまで受けてきた教育や培ってきた経験、考え方というような目に見えないものもあります。
そして多様な人が誰一人排除されない状態をつくることをインクルージョンといいますが、それは自己肯定感を高めて職場への愛着を育むという側面だけでなく、一人ひとりの違いを価値と捉えることで新たなアイデアが生まれやすくなるという効果も期待できるんですね。そして多様性が尊重される職場には多様な人材が集まってきて、好循環を生み出していくことができる。基本的な考え方としてはそのようなことを明記しています。
ただ、こうしたD&Iをすすめていくためには「すべての従業員が自分は受け入れられていると感じることができる企業文化を醸成する」というのが必要不可欠かつ最初のステップだと思うんですね。
ー「違いを認め、受け入れよう」という外向きのベクトルではなく、「自分は受け入れられていると感じられるか?」というのは自分ごととして捉えやすく、分かりやすいですね。
ウェルネスD&I推進委員会(当時)での議論の中で、とある委員の役員の方が子供の頃に見た目のことを言われて嫌な思いをした経験があるというエピソードを話されました。「自分にもマイノリティとしての感覚があったことを思い出した。D&Iを考えるというのは、そういう感覚を忘れないということが大切なのかも」と話してくださったことは印象的でした。
こうした意見交換がもとになり、「誰もがマジョリティである面とマイノリティである面の両方を持ちうることを認識し」というフレーズを推進方針の中に入れました。ここは特にこだわった部分です。