BLUE FRONT SHIBAURAをもっとインクルーシブな空間にするには?インクルーシブデザインワークショップ・LGBT編レポ【前編】
野村不動産グループは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進するための重要な施策の一つとして「インクルーシブデザイン」の考え方を学び、事業を通じて実践することを目指しています。
インクルーシブデザインとは、これまでサービスや製品の対象者から排除されがちだった障がい者や高齢者などを、開発プロセスの初期段階から巻き込んでいくデザイン手法のこと。当社でも「商品・サービスづくり等のプロセスへ多様な背景・価値観を持つ人々の参画により新たな気づきを得て、まだ見ぬ価値を創造するための手法」と定義しています。
ただ、国内外での事例がまだ少ないこともあり、頭では理解できても実際にどのようにすればいいのか分からないとの声も聞かれます。
そこで当社では、2024年度もインクルーシブデザインの理解者を増やすための第一歩として、2回にわたってワークショップを実施します。第1回は、LGBTの当事者グループに入っていただきながら、2025年2月に1棟目のS棟が竣工予定である大規模複合開発「BLUE FRONT SHIBAURA」(東京都港区芝浦)で実際に行える施策のアイデアを出し合いました。
各本部から集まった参加者は、インクルーシブデザインについてどのように考え、理解し、グループワークを通じてどのようなアイデアを見つけたのでしょうか。
リードユーザーと共創するものづくり
この日のワークショップには、芝浦プロジェクト本部や住宅事業本部、人材開発部、サステナビリティ推進部から17人が参加。これまでのインクルーシブデザインワークショップもご支援いただいたPLAYWORKS代表取締役・タキザワケイタさんによるリードで始まりました。
タキザワさんからはまず、従来のものづくりとインクルーシブデザインを取り入れたものづくりとの違いについて、このような説明がありました。
「これまでのものづくりでは、ほぼ完成したタイミングでユーザーテストを行い、さまざまなフィードバックをもらうものの、それらが反映されないまま世の中に出てしまうことが多かったと思います。これに対して、インクルーシブデザインによるものづくりでは、テーマにマッチしたリードユーザーとプロジェクトの最初から最後までデザインパートナーとして一緒に活動していきます」
インクルーシブデザインによるものづくりは、日本企業の間でも徐々に増えてきています。タキザワさんは、すべての製品で障がい者の意見を取り入れることを社内外に宣言したり、インクルーシブデザインを考慮した商品構成率の目標値を設定している日本の大手企業の具体的な事例を紹介。その上で、参加者の皆さんにこのように呼びかけました。
*インクルーシブデザインとは何か?さらに詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧下さい。
「私たちはリードユーザーを『未知の未来に導いてくれる人』と定義しています。リードユーザーとの共創を通じてインクルーシブデザインへの理解を深めることをスタートに、野村不動産グループの事業に具体的に組み込まれていくことが最終的なゴールです」
タキザワさんのお話を受けて、参加者は3つのグループに分かれてお互いに自己紹介や参加動機などをシェアし合いました。参加者の間からは「D&Iの観点でのものづくりのヒントになればと思って参加しました。ただ、現場では課題が多いので、どのようにすればできるか考えていきたい」などといった声が聞かれました。
多様性に気づき、愛するために
お互いを知り合ったところで、今回のワークショップのリードユーザーであるトランスジェンダー3人組ユニット「ミュータントウェーブ」から活動を紹介してもらいました。
ミュータントウェーブのメンバーは、おおちゃん、あさひさん、まささんの3人。いずれも元なでしこリーグの女子サッカー選手で、現在は3人とも戸籍上男性として生活しています。女性、アスリート、男性という3つの世界を生きて、それぞれの文化の違いを体験することから得られた「世界中のすべての人々が自分を愛せる」を実現するため、企業への多様性研修やメディア出演など多岐にわたる活動を続けています。
「私たちは当事者なのでLGBTについて教えてと言われること多いですが、私たちと関わることで愛に溢れる社会を一緒に作っていけたらと思います」
おおちゃんがこう呼びかけると、タキザワさんが「皆さん、どんなことを聞いていいのか不安になっていませんか?」と投げかけます。するとすかさず、おおちゃんから「私たちは、世界一NGがない集団です(笑)。聞きたい背景を教えていただければ、身体のことや法律のことなど、純粋に気になったことを聞いていいですよ!」という一言が。初対面同士のコミュニケーションの壁が、少しずつ溶けていきます。
人に寄り添う空間を目指して
その後は、今回のワークショップでの成果を反映させることを目指す現場であるBLUE FRONT SHIBAURAでのD&Iに関する施策を、芝浦プロジェクト事業部長・長谷川さんから紹介してもらいました。
BLUE FRONT SHIBAURAは、オフィスビル指標のSクラスビルとして最高水準のハードを整備すると同時に、同クラスのビルよりも共用部分を広く設けて人同士の交わりを増やそうとするなど、人に寄り添う運営にも踏み込もうとしています。こうした背景とともに、施設運営会社にもD&Iを求める外資系企業テナントのニーズにも応えるため、現在、BLUE FRONT SHIBAURAに関わる数々のD&Iの取り組みをまとめています。
そのプロセスを振り返りながら、長谷川さんは「小粒なものも含めてあらゆる取り組みを網羅的にまとめていますが、今日のワークショップを通じてさらなるアイデアを発見できたら嬉しいです」と言います。
さらに、長谷川さんは自身が体感したエピソードから得られた思いも語りかけます。
「世界有数の建築設計事務所、ゲンスラー社のオフィスを案内していただいた時に、搾乳スペースを見つけました。そこにはデスクが置いてあり、搾乳しながら仕事ができるのです。そこで作業をしている社員はきっと家で赤ちゃんが待っているので早く帰りたいはず。でも、自分の仕事をするためにオフィス出社もしているので、これはとても合理的だと思いました。会社にとっても働く人にとってもその家族にとっても嬉しいことを増やして、D&Iを事業のバリューにしていきたいですね」
一通りの話題提供が終わったところで、いよいよBLUE FRONT SHIBAURAで実際に取り組めるLGBTの視点を踏まえたD&I施策アイデアをグループごとに出し合っていきました。
各グループには、リードユーザーとしておおちゃん、あさひさん、まささんも加わります。
- ・トランスジェンダーの方が仕事の休憩時間にホルモン注射に通えるようビル内にクリニックを設ける
- ・誰でも気兼ねなく運動ができるジムをつくる
- ・すべてのテナント向けにもアライ(Ally)研修を実施する
など、LGBTの人たちが抱える悩みの解消につながりそうな具体性の高いアイデアが、一部のグループから出てきました。
その一方で、「そもそも何が課題なのかピンと来ない!」「LGBTの方々の課題がどこにあるのかまだ見えてこない…」などといった声があがるグループも。
アイデアに行き詰まりかけた状況から、参加者の皆さんはリードユーザーとの対話を通じてどのようなアイデアを見つけ出し、インクルーシブデザインを体感していくのでしょうか?後編もお楽しみに!