「マイノリティのために」から、「ともにつくる」の実践へ。インクルーシブデザインワークショップ・LGBT編レポ【後編】
前編の「BLUE FRONT SHIBAURAをもっとインクルーシブな空間にするには?インクルーシブデザインワークショップ・LGBT編レポ【前編】」に引き続き、インクルーシブデザインワークショップ(LGBT編)の様子をお届けします。BLUE FRONT SHIBAURAをもっとインクルーシブな空間にしていくために、野村不動産グループの社員が考えたアイデアとは?そして彼らがワークショップを通じて感じたこと、見えてきたこととは?
※レポート前編はこちら
LGBTだけを特別視しない
LGBTとはどのような人たちで、どのような課題を抱えているのか分からなかったことで、具体的なアイデアが出づらい状況になっていたワークショップ前半。しかし、それぞれのグループで対話が深まるにつれて、より本質的な取り組みにつながりそうなコンセプトやアイデアの兆しが見えてくるようになってきました。例えば、
「LGBTで考えるからアイデアが出ないのかもしれないので、LGBTだけを区別すること自体をやめて、もっとお互いを理解できるようにする研修やイベントが必要ではないか」
すると、それに呼応するように別のグループからもこんな意見が。
「LGBTだけをテーマとしたイベントだと、ある意味で彼らを区別してしまっていることになる。イベント自体に多様性を持たせるべきで、例えば『LGBT』だけでなく『健康』『ペット』『スポーツ』など、世の中の関心事を入れ込みながら楽しめる場です。何に興味があるかは分からないけれども、何だか楽しそうだと見られるようになれば多様性が深まるはず。そうしたことを積み重ねることで、BLUE FRONT SHIBAURAという誰にでも開かれた街が出来上がっていくのではないか」
今まで無意識のうちにあった前提に疑問を持ち、視界を広げることで、新たな視点から具体的なアイデアを作り出そうというマインドに変わっていきました。
大切なのは、選択肢があること
LGBTのみを対象として限定しすぎないという視点が生まれた一方で、LGBTの人たちが安心して仕事や生活を営めるための選択肢があることは重要だという意見も出ました。ミュータントウェーブのおおちゃんは、このように話します。
「LGBTを区別することが差別だとは思いません。会社としての信念が反映された制度やイベントであれば、それで良いと思います。(中略)また、会社として制度を整えてもLGBT当事者が知らないということがまだまだ多いので、当事者への情報提供をもっとやって欲しいですね」
まささんやあさひさんも、AIを通じて相談ができる仕組みを作ったり、BLUE FRONT SHIBAURAの施設マップにLGBTフレンドリーだけでなく、ペットフレンドリーな場所を表示したりするなど、さまざまな人たちの安心に寄り添える要素を盛り込むというアイデアを出してくれました。
選択肢を作った上で、共通の関心事のある人たちが出会い、楽しめる場にする――。芝浦プロジェクトでのD&Iコンセプトの輪郭が見えてきたようでした。
さて、ワークショップもいよいよ終盤に。最後は、ここまでに出てきた数多くのアイデアの中から、会社として取り組むべきことと、個人としてやってみたいことを分けて各グループで考えてもらいました。
「会社としてやるべきことは、クリニックの併設や、トイレの動線変更や男性用トイレ内にサニタリーボックスを設置したり、(体調があまり良くない時に一人で仕事ができる)レストワークスペースを設けることでしょうか。これは、住宅などにも転用していきたいと思いました。また、アライ研修や当事者コミュニティづくりと発信については、中途半端に知識として覚えるだけではなく行動を起こせるよう最後までやり切りたいです。個人としては、子どもの教育に着目して、多様な背景を持つ人たちがいることが当たり前だということを伝えていきたい」
「会社としてLGBTをサポートする姿勢を示すことで、採用にも良い影響につながるのではないかと感じた。個人としては、その人の属性にフォーカスしすぎず、一人ひとりを理解する姿勢を持つことが大切」
「会社として研修機会を提供した上で、一般の人も楽しめるイベントなどを行い、それらの成果を対外的に伝えていくことで、物件としての価値を高められるのではないか」
最後に、本ワークショップを企画したグループ人材開発部長の鵜川里絵さんから、このようなメッセージがありました。
「今回は、インクルーシブデザインの手法のなかで新しいアイディアが生まれればと願い開催しました。思ったよりも小難しいものではなく無意識のフィルターを取り去って視野を広げる楽しさを感じてもらえたのであれば嬉しいです。普段交流のない人とも話すことで多様性に気づき、そこに居心地の良さを感じてもらえたら良いと思います。ぜひ、今日のインクルーシブデザインワークショップでの体験を社内で話してみてほしいです」
一人ひとりの価値観、幸せに寄り添っていける施策を
半日のワークショップが無事に終わり、参加した皆さんはどのような感想を持ったのでしょうか。
「これまでいかに当事者不在で議論を進めていたのかということを実感できた」(住宅事業本部)
「目の前にいる相手の人を知ることが大事なのだと、改めて認識できた」(サステナビリティ推進部)
「LGBTの人たちにとってだけでなく、すべての人にとって心地よい空間のあり方につなげたい」(人材開発部)
「多様性ある社会での豊かさとは、当事者が窮屈に感じない選択肢があることなのだと思った。この先の未来を創り出す不動産に関わる業務を進める立場として、前例踏襲の思考にとらわれずに人に寄り添って選択肢を提示できているか、という視点をもって行動に移していきたい」(芝浦プロジェクト本部)
今回初めての試みだった、LGBTをテーマとしたインクルーシブデザインワークショップ。企画に携わった皆さんは、どのように受け止めたのでしょうか。
芝浦プロジェクト・長谷川さん
「男性用トイレにサニタリーボックスを置いたり、ホルモン注射のできるクリニックをオフィスに併設したりしてもらえると助かるといった具体的なお話を聞くにつれ、デベロッパーとしての社会的責任はもっとあるのではないかという気づきを得ました。私たちは、ビルのオーナーとして自社だけでなくビル全体としてD&Iを推進できる立場にあるので、各テナントによる取り組み発信を支援したり、芝浦エリア広域構想として一人ひとりの価値観、幸せに寄り添っていける施策を進めていきたいと改めて強く思いました」
ミュータントウェーブの皆さん
「皆さん真面目すぎるので(笑)、出たアイデアを全部やろうとしているかもしれませんが、未来を見据えながら段階的に進めていけば良いと思います。是非、役員の方々ともこういった場を共有できるとよいですね。個人としては、企業の役員レベルの人たちにズバリと言える役割として入っていきたいです」(おおちゃん)
「色々な価値観のもとで話が進むと、これほどアイデアが出るのだということを実感しました。自分と相手の意見を擦り合わせていくことを意識することで、どのような特性を持っていても解決できることがある。最後のワークでは、LGBTのインクルーシブデザインで個人として何ができるのか、今まであまり考えていなかったことを考えるきっかけになりました」(あさひさん)
「グループワークの最初は『LGBT当事者の方にとっては~』という主語だったのが徐々に『自分だったらどうだろう?』という意識に変わっていくのを目の当たりにして気持ちが良かった。トランスジェンダーとして”人がありのままでいられる力”を知っているので、これから皆さんと誰もが安心して過ごせる場所をご一緒に議論しながら築き上げたい」(まささん)
PLAYWORKS代表・タキザワさん
「今日のワークショップはLGBTというテーマに踏み込んだ最初の一歩として、非常に意味があったと思います。LGBTをテーマにしながらも、自分を含むより多様な人たちのためにというアイデアが多かったというのは、嬉しい発見でした。どのようなテーマやターゲットであっても、今まで知らなかったことを知る、お互いの関係性を作っていくことを楽しむというマインドで参加してもらえると実感しました。こうしたマインドを一緒に広げていけば、自ずと成果につながると思います」
いかがでしたでしょうか。今回参加できなかった皆さんも、本レポートを読みながらぜひご自身でもアイデアを考えてみて下さい。
次回のインクルーシブデザインワークショップは、外国人技能実習生の皆さんにリードユーザーとして入っていただいて実施予定です。多くの社員の皆さんのご参加をお待ちしています!