宿泊客にも環境にも嬉しい、サステナブルツーリズムとは?【座談会@庭のホテル レポ前編】

環境問題やオーバーツーリズムなどの問題から注目を集める、サステナブルツーリズム。今回は、サステナビリティメディアを運営するハーチ株式会社の加藤さんと、野村不動産ホテルズから「庭のホテル」の海老沼さん、同レストラン担当の菅原さんを招いて、「サステナビリティ×旅」をテーマに座談会を実施しました。近年のサステナブルツーリズムの動向や「庭のホテル」におけるサステナブルな取り組みなど、盛りだくさんの座談会の様子を3回にわたってお届けします!

大畑(サステナ博士):今日のテーマは「ホテルはサステナの宝庫!旅から考えるサステナ」ということで、「庭のホテル」におけるサステナビリティの取り組み、そして国内外のユニークなサステナブルホテルの事例にも触れながら進めていきたいと思います。最初にそれぞれ自己紹介をお願いします。
加藤:ハーチ株式会社の加藤と申します。世界中にある社会課題をクリエイティブに解決するアイデアを集めて発信する「IDEAS FOR GOOD」などのデジタルマガジンの運営のほか、社会をサステナブルに変革していくさまざまなプロジェクトに企業や自治体と一緒に取り組んでいます。
海老沼:野村不動産ホテルズ「庭のホテル 東京」の海老沼と申します。普段はホテルの売上やコスト、サービス、人、空間など、運営全般に関わる責任者として、スタッフとともに日々話し合いながらより良いホテルづくりを目指しています。
菅原:庭のホテル東京の洋食レストラン「ダイニング流(りゅう)」でマネージャーをしております、菅原と申します。ゲストの方々に対して心地良い空間や魅力的な商品を提供しながら、仲間が働きやすい環境を整えられるよう考えています。

大畑:まず、日本のホテルにも最近インバウンドのお客様が増えてきている中、サステナビリティと旅行の動向に関して、世界のトレンドも含めて加藤さんに話を伺っていきたいと思います。
なぜ「サステナビリティ×旅」が注目されているのか?

加藤:「サステナビリティ×旅」は私も非常に好きなテーマの一つです。IDEAS FOR GOODでは、記事での発信だけでなく、読者の皆さんと実際に現地を訪れる企画もあります。
2023年にはロンドン、パリ、アムステルダムに行き、サステナブルな取り組みをしているレストランにお邪魔したり、種を入れた泥団子を作ってまちに蒔くというワークショップを体験しました。また、水路に囲まれたアムステルダムでは川に落ちてしまったプラスチックを皆で船にから釣り上げて回収するプラスチックフィッシングというアクティビティが人気を集めるなど、体験型のサステナブルなアクティビティが積極的に行われています。ヨーロッパだけでなくアジアでもサステナブルツーリズムは非常に注目を集めていて、最近では台湾や日本でも盛り上がってきていますね。

加藤:サステナブルツーリズムの背景としては、従来型のマスツーリズムの課題があります。世界の旅行客数はずっと伸び続けていて、一時期コロナの影響でガクッと下がったものの、今はコロナ前と同じような傾向に戻ってきています。
その中で、航空産業は世界のCO2排出量の約2%を占めていると言われており、旅行産業全体だと約8%だとされています。飛行機移動の環境負荷が非常に大きいため、できるだけ飛行機を使わずに移動しようといった動きもあります。
大畑:庭のホテルのお二人は、旅やサステナビリティに関して気になる課題はありますか?
海老沼:京都などのオーバーツーリズムの問題は、野村不動産グループのホテルにも影響してくるので気になっていますね。海外の方はやはり増えています。
菅原:私も、レストランでは海外の方々が増えているのは朝食の現場などで間近に見て感じていますね。

加藤:オーバーツーリズムの問題が起きている地域では、地価が上がりすぎて地元の方が他の地域に移住せざるを得なくなってしまう「ツーリスティフィケーション(Touristification)」といった問題もあります。
バリも観光客が多く押し寄せてきたことでプラスチックのゴミがビーチを埋め尽くしている状況になってしまったり、開発の中で自然が壊されてしまったり、文化が失われていくことが課題になっていますね。
サステナブルツーリズムは旅する人の“あり方”?
加藤:そういった中で注目されているのが「サステナブルツーリズム」です。ゲストや業界、環境、受け入れていくコミュニティのニーズにきちんと対応しながら、環境・社会・経済を将来の世代につないでいけるよう配慮しながら旅をしていくというものです。
北欧・デンマークの具体例を挙げてみましょう。首都のコペンハーゲンでは観光客が公共交通機関を使ったり、ごみ拾いや都市農園の作業を手伝うとインセンティブ「CopenPay」がもらえるという取り組みが試験的に導入されています。
「サステナブルツーリズム」というと新しいジャンルが出てきたという風に思われる方もいらっしゃるかもしれないですが、元々グリーンツーリズムやエコツーリズムという考え方がありましたし、最近では旅をすることでむしろ環境が良くなるという再生型のリジェネラティブツーリズムという言葉も出てきています。
サステナブルツーリズムというのは一つのジャンルではなく、どんな旅の形だとしても、どのようにそれを持続可能な形で楽しんでいくかという「How」の概念(姿勢や態度)だと考えていただけると嬉しいなと思います。

旅をするとむしろ環境が良くなる?リジェネラティブツーリズム
大畑:先ほどリジェネラティブツーリズムの話がありましたが、世界ではどのような動きがあるのでしょうか?
加藤:言葉の定義も含めて議論されているところではあるのですが、環境再生型の農業など、旅を通じてその土地の環境をより良くするようなアクティビティに参加するなどです。
日本ですと、里山や里海の保全活動に参加して、楽しく体験しながら収穫したものを一緒に食べるという体験がリジェネラティブなツーリズムに繋がっていくのかなと思います。
海老沼:我々も地域と密着して、まずは小さなところからでも一歩ずつやっていく必要がありますね。
菅原:「庭のホテル」の屋上では野菜を栽培したり、ミツバチの蜜をとったりしているので、そういった小さな一歩を皆さんに知っていただけたら嬉しいですね。

前編では国内外のサステナブルツーリズムの動向を中心にお届けしました。中編は「庭のホテル」のサステナブルな取り組みの実践事例についてお届けします!