旅をすると地球のためになる?これからのツーリズム【座談会@庭のホテル レポ後編】

中編では屋上菜園や養蜂、捨てられてしまう卵の殻の活用方法など、庭のホテルでの具体的な取り組みについてお聞きしました。最終回となる後編では、庭のホテルや旅行・観光業界、そして旅人がもっとサステナブルなあり方を追求するためにどうすればよいか、議論を交わしました。
事例から学ぶ、サステナビリティ×ホテルの取り組みのヒント
大畑:加藤さん、今後サステナブルな取り組みをさらに推進していくためのヒントになりそうな事例を教えてください。

加藤:はい、注目している事例を三つご紹介します。まず一つ目は、伊勢志摩(三重県)の「COVA KAKUDA」というリゾートヴィラです。

かつての真珠養殖の加工場をホテルにリノベーションした施設で、実際に真珠の養殖に携わっている方々が運営しています。英虞(あご)湾では、美しい真珠を養殖する一方で、養殖の際に出るプラスチックごみが問題となっていました。観光客に「もっと綺麗な英虞湾を見てもらいたい!」という動機から、その状況を改善するために事業者が協力してごみをアップサイクルする取り組みをしているそうです。
また、山を間伐したり、畑を作ったり、土地の手入れをしたりすることで、雨が降れば山の栄養が海に注ぎ、海の豊かさも改善されています。
続いてご紹介するのは、オランダのアムステルダムにあるホテル「HOTEL JAKARTA AMSTERDAM」です。

外壁の大部分をガラスにすることで自然光が差し込み、電力削減に繋がったり、宿泊客が客室清掃を一回断るごとに木を一本植えるというプログラムを運営しているそうです。地元の方がホテル内のプールやショップを利用できる仕組みもあり、環境・社会・経済全てに配慮されたホテルです。
海老沼:自然光が入りやすいようにガラスで外壁ができているというのは、最初からそれを目的に建築しているということですよね。
加藤:そうですね。このホテルはガラス以外もモジュラー形式といって最初からできたものをそのまま現地に持って行って作られているので解体しやすいですし、建築の段階から循環性の原則を取り入れているのが特徴です。
最後にご紹介するのは、インドネシア・バリ島の「Mana Earthly Paradise」です。

土を土嚢に詰めて積み上げる「アースバッグ」という工法でヴィラが建築されています。照明は太陽光発電。使用する水は全て雨水で、シャワーやトイレの排水を濾過して花壇の花の水やりに使っています。廃材を使って建設しているので、新しい木を一本も切らずに作ったそうです。実際に訪れると、自然と繋がった感覚を体験できます。
大畑:バリ島はプラスチックごみの問題があると聞きますが、実際はどうなんでしょうか? 加藤:「Mana Earthly Paradise」の中はとても綺麗なのですが、やはり外に一歩出ると、道端にプラごみが落ちているところもあります。たとえば、日本でも昔はおにぎりを筍の皮で包んでいたように、土に還る素材であれば使い捨てても問題はなかったと思うのですが、文化や習慣が変わるよりも素材が入れ替わるスピードの方が早いと、プラごみとして溜まってしまうという状況になります。使い捨てが悪いというだけでなく、素材や文化も含めて考えていかなければならない問題だと思います。
旅行者が気軽にできるサステナブルな取り組み
大畑:サステナビリティの観点から、旅行者に対するメッセージはありますか?
加藤:先ほどご紹介した事例を含めて素敵な取り組みをしているホテルが沢山あるので、そういったホテルに泊まるというのが一番シンプルな貢献の形ではないでしょうか。その上で、旅行中はなるべく公共交通機関を使う、ごみを出さない工夫をする、と組み合わせていけると良いですよね。
菅原:ビュッフェで食事を取り過ぎないこと、自分が食べ切れる分だけを取っていただくよう、お願いのPOPを出しています。

海老沼:ペットボトルを買うのではなくマイボトルを持っていく、旅先で地産地消を意識してみる、といった小さなことの積み重ねも大切ですね。
大畑:加藤さんから見て、今後ソーシャルグッドな世界をつくっていくために庭のホテルや野村不動産グループに期待することは何ですか?
加藤:庭のホテルは日本のサステナビリティをショーケースする「メディア」かもしれません。海外のお客様が庭のホテルでサステナブルな体験をすることで、日本のサステナビリティのブランディングにも繋がりますし、さらに多くの方が来てくださるのではないでしょうか。すでに素敵な取り組みをしていらっしゃいますので、日本ならではの持続可能な文化や知恵を凝縮して、「日本でしか経験できない、庭のホテルで過ごせてよかった」という体験を作っていけるといいですね。

大畑:庭のホテルのお二人から、これから挑戦していきたいことや目標について教えてください。
菅原:屋上で採れた野菜だけでなく、東京産の肉や野菜を積極的に取り入れているのですが、更に強化して地産地消のムーブメントを作っていき、フードマイレージを少しでも削減できる取り組みをしていきたいです。
海老沼:日本では環境に配慮した取り組みがまだそこまで進んでいないと感じています。たとえばスーツケースを使った野菜作りを地域の方々と連携しながら進めていく、小学校に出向きこのスーツケースに絵を描くワークショップの開催など、楽しさや思い出に繋がるような体験を通して今までにない価値観を提供していきたいですね。

海老沼:また、つなぐ森から仕入れた山葵で「山葵ビール」を作り始めていますし、つなぐ森の間伐材の活用方法も模索していきたいです。

大畑:メディアと事業者が組んで、具体的な取り組みと情報をどんどん広げていき、楽しいサステナブルツーリズムの世界を作っていけそうな予感ですね!
あなたにとっての「サステナビリティ」とは?
大畑:最後に、私にとってのサステナビリティとは何か、それぞれ一言ずつお願いします。
加藤:「旅」です。サステナビリティは答えのない問いをずっと探索し続けていく「旅」のようなものだと思っています。旅は楽しさやワクワクがある一方、辛いことや大変なこともある。でも最後は良かったと思えるようなものなので。一方で、旅自体もサステナビリティに対する意識を高めるきっかけだと考えています。サステナブルな課題は地球規模や地域単位などさまざまで、現地に行けば課題もリアルに把握できます。
もし訪れた先に友達ができたら、現地の課題が他人事ではなく自分事に感じられるようになります。旅をすればするほど自然と地球全体のことも自分事として考えられるようになりますし、旅はサステナブルな社会を作っていく上で大事な要素ではないでしょうか。
菅原:私は「気づきと活気」です。サステナビリティを意識する一方、どうしても日々の業務に追われてしまって、サステナビリティへの意識が薄れてしまうことが多いと思うんですよね。そんな中で海老沼さんから屋上菜園や養蜂という、業務のなかでサステナビリティへの関心を高める一つの気づきをいただきました。ホテルでこういうことができると思っていなかったので、気づきを得られたのはすごく大きかったです。
もう一つは、サステナブルな活動を通して皆が自主的に参加していくことで、ひとりひとりがホテルのストーリーをしっかりと自分の中に落とし込めますし、結果的にお客様にそのストーリーを伝えられるようになります。この活動を通してホテルをどんどん活気づけていきたいです。

海老沼:私にとってのサステナビリティは「日常」です。我々が最初に始めた「eco庭プロジェクト」も、日常の中で落ち葉に着目し、拾うところからスタートしています。目の前にあるものの見方を変えてみると、サステナブルな活動に繋がっていくものは沢山あると思います。ただ、日常生活の中で自分たちが苦しくなるようなことは継続できないと思うので、自分たちが苦しくない、我慢しない中で上手く取り入れていくことを考え続けていく必要があります。その取り組みが成功すると少しずつ楽しみが生まれて周りにも広がっていくと思うので、日常の中で少し視点を変えて考えることが大事だと思います。
今回は「サステナビリティと旅」をテーマに、庭のホテルでの取り組みや国内外の事例紹介も交えながら議論してきました。皆さんも、次の休暇では少し旅の仕方を変えてみてはいかがでしょうか。