きっかけは、落ち葉拾いから!「庭のホテル」でのサステナブルな取り組み【座談会@庭のホテル レポ中編】

記事のサムネイル画像。庭のホテルの海老沼さんと菅原さんがホテルの屋上で菜園や養蜂の説明をしています

「サステナビリティ×旅」をめぐる前編では、サステナブルツーリズムの最前線についてハーチの加藤さんにお話しいただきました。中編では、「庭のホテル」が3年前から始めたサステナブルアクションをご紹介。廃材のアップサイクルやホテルの屋上を活用するアイデアなど、ユニークな取り組みをお届けします!

「庭のホテル」で採れた蜂蜜を、ホテルの朝食やお土産に

大畑:「庭のホテル」で実践しているサステナビリティに関する取り組みについて、菅原さん、海老沼さん、教えていただけますか?

菅原:屋上養蜂で採れた蜂蜜を「ダイニング流(りゅう)」では『ハニーレモンスカッシュ』として提供しています。ハニーレモンスカッシュの中に入っているローズマリーも、屋上菜園で収穫したものです。特に女性のお客様からご好評いただきまして、ソフトドリンクの中で一番多くご注文いただいていると思います。

4人がハニーレモンスカッシュを試飲している様子

大畑:蜂蜜もローズマリーもどちらも採れたてでフレッシュですね。実際にどのようにして蜜を採取するのでしょうか?

海老沼:蜂は皇居や後楽園など、このホテルの周辺の庭園や花壇などで花の蜜を集めて屋上にやってきて、そこに設置した養蜂箱の巣枠に蜂蜜が溜まっていくという仕組みです。

海老沼さんが手に持った巣枠には蜂蜜が溜まっています
びっしりと蜂蜜が溜まった巣枠

巣枠にある程度蜂蜜が出来上がると上の部分がふたのようになり、そのふたの部分を薄く切り取って遠心分離機に入れてグルグル回すと蜂蜜が採取できるという仕組みです。スタッフと手分けしてホテルで全て蜜を採取しています。今年は85kgの蜂蜜を採取できました。一回で大体20kg、多いときは25kg採蜜できます。

左の写真では、屋上で防護服を着た人がミツバチの集まる巣枠を持ち上げています。右の写真には、ハニーレモンスカッシュの入ったグラスが並んでいます
蜂の巣枠(左)、ハニーレモンスカッシュ(右)

大畑:なるほど。採取した蜂蜜はお土産として販売もされているそうですが?

海老沼:海外のお客様が多いので、東京の蜂蜜が珍しいということもあってご購入いただけるケースが増えてきていますね。

加藤:季節によって蜜の味が変わると聞いたことがありますが、ここで採れる蜂蜜もそうなんですか?

海老沼:我々は春と夏に採蜜するのですが、春は桜や菜の花、夏は花の種類も増えていくので百花蜜に近いものが採れて、風味も色も季節ごとの違いが楽しめますよ。

左の写真では、「庭のはちみつ」をスプーンですくっています。右の写真では、2つの「庭のはちみつ」が包装箱とともに並べられています
屋上で採取した「庭のはちみつ」。アフタヌーンティーのデザートにも使っているそう。

加藤:地域の緑が増えて豊かになっていくと採蜜量も増えていくので、蜜の量が指標として

地域の生態系の豊かさを表しているとも言えると思います。「庭のホテル」が皆さんと一緒に東京に蜜源となる自然を増やしていってそれを採り、それをお客様にお出しするというように、良い循環が生まれると良いですね。

ホテルに捨てられていたスーツケースを有効活用してプランターに

大畑:このスーツケースではレモングラスが育っていますね!

大畑さんが、スーツケースでできたプランターに植えられたレモングラスを手で指して話しています

海老沼:「eco庭プロジェクト」と称して、最初は館内の庭で集めた落ち葉で腐葉土作りを始めました。それを実際に活用してみようと思い、屋上でコーヒーの麻袋に腐葉土を詰めて野菜作りをスタートしたんです。しかし、麻袋は耐久性や保水性に問題がありました。環境配慮への想いからプラスチック製のプランターを買うのはちょっと違うな…と悩みました。そんなとき、ホテルのゴミ集積所に宿泊客が廃棄したスーツケースが沢山あることに気づき、スーツケースをプランター代わりにして野菜を育てることにチャレンジしました。

大畑:スーツケースをプランターにアップサイクルしたんですね!

海老沼:使わなくなったスーツケースを部屋に置いていかれるお客様が結構いらっしゃって、我々としてもそのスーツケースを処分するコストがかかっていたので、有効活用になりました。

庭のホテルの屋上に並んだ、スーツケースをアップサイクルしたプランター。たくさんの種類の花や野菜などが植えられています。

大畑:レモングラス以外には何を栽培されているんですか?

海老沼:夏場の最盛期は野菜を25種類ほど育てています。ピーマンやスイカ、メロンなど大型の野菜を育てているんですが、大型の野菜は受粉が必要な場合があります。虫がいない屋上では自然な受粉ができないので、最初は私が屋上に行って人工的に受粉をしていたのですが、あるときバジルの花の中にミツバチが入っていくのを見て、養蜂を思いつきました。

大畑:屋上菜園と養蜂は別々のプロジェクトではなく繋がっているんですね。 海老沼:これは我々が作っているオリジナルのクラフトビール「庭のビール」で、屋上菜園で育てた蜂蜜、レモングラス、レモンバーム、スペアミントを使用しています。「庭のビール」シリーズで最初に作ったビールは「山葵(わさび)」でした。当時は東京産の山葵が手に入らず、別の県から仕入れていたのですが、野村不動産グループが保有する、東京都奥多摩にある「つなぐ森」で栽培した山葵を仕入れることができるようになりました。

2種類の「庭のビール」。それぞれのガラス瓶には黄色と青緑色のラベルがついています
「庭のビール 蜂蜜」(左)「庭のビール 山葵」(右)
左には山葵の葉が写っており、右の写真ではホテルのスタッフたちが庭のホテルの屋上でハーブを収穫しています。
奥多摩の「つなぐ森」で栽培している山葵(左)蜂蜜ビールのためのハーブ収穫の様子(右)

大畑:朝食ビュッフェで提供している卵料理から出る殻も屋上菜園に活用されていると聞きました。

海老沼:毎日100〜150食ほど卵料理を提供しているんですが、その殻を粉々に砕いて有機石灰の代わりに土の中に混ぜて野菜を育てています。

加藤:ホテルのサステナビリティに関する取り組みって、「とりあえず何かやらなきゃ」とバラバラに始まることもあると思うのですが、海老沼さん個人の想いがストーリーになって繋がり、実現できているというのが本当に素敵だなと感じました。

サステナブルな取り組みの全てのきっかけは庭掃除

大畑:サステナビリティへの取り組みはどういうきっかけがあって始めたんですか?

海老沼:コロナ禍が落ち着いてきた頃、ホテル内の「4つの庭」をしっかりと整備してお客様をお迎えしたいという想いから、徹底した庭掃除を始めました。そのときに沢山の枯れ葉が集まって「捨てるのもなんだかなぁ」とふと立ち止まってあるアイデアがよぎりました。早速インターネットで腐葉土の作り方を調べたのがきっかけです。

大きな岩や木々が並ぶ中庭がライトアップされています
「庭のホテル」の名前が示すように、四季折々の景色を楽しめる4つの庭が特徴

大畑:会社としてのサステナビリティポリシーを見据えることも大事ですが、日常のお仕事の中でもアンテナを張って今自分たちができることを発見したんですね。

海老沼:そうですね。誰かから言われたというわけではなく、アイデアから繋がっていった感じです。

大畑:野村不動産グループで働いているひとりひとりが海老沼さんのように考えていくと色々なアイデアが実りそうですね。

菅原:庭のホテルは自然の中でリラックスしながら過ごしたいというお客様が多いので、自然への取り組みに敏感な方が多いです。養蜂や屋上菜園の作業はホテル従業員のみんなで参加しているので、そういった方々に私たちの実体験とストーリーを直接伝えていくことができるというのも特徴です。

大畑:従業員にとっての誇りやモチベーションの向上にも繋がりますね。

4人が屋上で育てられている作物を囲んで話しています

ホテルならではの課題に、旅行者とともに取り組んでいく

今回ご紹介した以外にも、庭のホテルでは宿泊ゲストが不要になった衣服を回収する取り組みを行っています。宿泊したゲストが客室にある意思表示カードを不要になった衣服の上に置くと、ホテルがそれを回収。資源循環プラットフォーム「PASSTO(パスト)」を通じてリユース・リサイクルなどの形で再流通されるそうです。

海老沼さんがホテルの客室内で資源プラットフォーム「パスト」を活用した衣類の循環について説明しています

海老沼:先ほどのスーツケースもそうですが、洋服など不要になったものを置いていかれるお客様は意外と多いんです。お客様も旅行の際はできるだけ荷物を減らしたいでしょうし、ホテルとしても不用品の回収を通じて資源循環に貢献していけたらと考えています。

ホテルの客室のベッドに、意思表示用のカードが置かれています
宿泊ゲストが不要になった洋服を回収に出すための意思表示カード

身近なところから、そして旅行者の視点から。サステナブルで快適な旅をつくる取り組みは、ホテルならではですね。後編では、これからの「旅」を通じてサステナビリティを実現する道のりについて、今後の展望を考えていきます!