「わたしたち」の小さな一歩が未来を大きく変える。資産運用ビジネスで好循環を創出するには?(野村不動産投資顧問インタビュー・前編)

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「みんなで、つなぐ!」編集部では、野村不動産グループ各社でサステナビリティに取り組む社員へインタビューを行っています。

今回は、資産運用ビジネスにおけるサステナビリティを推進している野村不動産投資顧問株式会社の運用企画部サステナビリティ推進課と企画部業務課のメンバーを取材。野村不動産投資顧問社では、不動産の投資・運用ビジネスに長期の視点でサステナビリティを取り入れるべく、グループのサステナビリティポリシー(2050年のありたい姿)をもとに独自のサステナビリティ方針を掲げています。記事前編では、サステナビリティ推進課の小木さんと一條さんに、同社が掲げるサステナビリティ方針ができるまでの歩みや今後の展望についてお話をいただきました。

環境・社会・経済の好循環をめざして。サステナビリティ方針の主役はわたしたち自身

―野村不動産投資顧問ではどのようなサステナビリティ方針を掲げているのでしょうか?

小木:野村不動産投資顧問では、次のようなサステナビリティ方針を掲げています。

サステナビリティ方針を説明する画像
「わたしたちは、地球・社会の一員として、不動産の投資・運用ビジネスに長期の視点でサステナビリティを取込み、新たな価値を創り続けていきます。
ひとつひとつ積み重ねていくことで、環境が保全され、たくさんの笑顔もあふれ、街や地域に賑わいが生まれ、経済や産業が発展します。
そのような豊かな社会では、サステナビリティの取組みについての理解・評価が進み、わたしたちのビジネスの機会も広がります。
このような循環を創り持続させていくことが、豊かな未来につながると信じて、挑み続けていきます。」

そして、この概念を図で表したのがこちらです。わたしたち(社員)自身が不動産を通じサステナビリティの取り組みを推進することで、環境が保全され、経済・産業の発展が実現、投資家やレンダーからの理解と評価が得られて資金を調達、社員のモチベーションが向上し、新たなサステナビリティ推進のための取り組みに活かすという循環を描いています。この循環を持続させることで、豊かな未来がきっと来ることを信じて自ら率先して動くという考え方です。その策定プロセスにおいても、社員の主体性、そしてこの方針が社員のためになるようなものとなることを念頭に議論を進めました。

サステナビリティ方針の概念図

―「信じる」ことがサステナビリティ方針の重要なキーワードだと思いますが、そこにはどのような背景があったのでしょうか?

小木:当社の運用ファンドでも、2015年頃から、「GRESB」(※)に参加して、サステナビリティの取り組みを推進してきました。ただ、いつの間にかGRESB評価の基準を満たし、点数を少しでも上げることが目的になっており、違和感を感じ始めていました。

サステナビリティの取り組みに対しての追い風はあるものの、「本当にこれをやって意味があるのだろうか」「何のためにやっているのだろうか」ということについては、あまり考える機会も持てず、各々が悩んでいたという実情がありました。当社のサステナビリティ方針を策定した2015年からおよそ10年程度経過し、ノウハウも十分に蓄積できてきたこのタイミングが、わたしたち自身で方針を見直して再出発するちょうど良い時期ではないかと思い、今回のプロジェクトに至ったのです。

※ GRESB(Global Real Estate Sustainability Benchmark)

不動産セクターのサステナビリティ要素を評価する年次のベンチマークで、世界的にも多くの不動産会社、REITや不動産ファンドが参加している。2024年の評価においては、野村不動産マスターファンド投資法人が「4stars」、野村不動産プライベート投資法人が「4stars」をそれぞれ獲得。

―その議論の末できたサステナビリティ方針にはどんな特徴があるのでしょうか?

小木:今回改定したサステナビリティ方針には特徴が三つあります。

一つ目は、主役はわたしたち(社員)であり、わたしたちのための方針を目指したということです。我々サステナビリティ担当だけが一生懸命に引っ張ってやっていこうとしても、活動は持続していきません。継続していくためには、現場主導でさまざまな取り組みやアイデアが生まれ、推進していけるような風土をつくっていくことが大切だと考えました。

二つ目は、「What?」ではなく「Why?」を意識したということです。社員が自分ごととして取り組むためには、社員自身がその取り組みの意義を自分なりに理解し、腹落ちしている必要があります。運用会社としての役割と、サステナビリティへの取り組みの意義とが重なるよう、多くの社員から意見を聞きながら議論を重ねました。

三つ目は、作って終わりではなく、サステナビリティ推進における拠り所となるよう、継続的な施策を行っていくことです。やはり部署により業務でのサステナビリティとの関連度合いには濃淡があり、個人でもサステナビリティへの興味や理解にはばらつきがあるものです。そこで今期から、サステナビリティをより身近に感じることができるように、サステナビリティに「触れる」ツアーを数種類企画しています。社員が希望制で自身の興味があるテーマのツアーを選んで参加することで、サステナビリティを五感で体験できるような機会を継続的に提供していきたいと考えています。

野村不動産投資顧問株式会社 運用企画部サステナビリティ推進課の小木さんの画像
野村不動産投資顧問株式会社 運用企画部サステナビリティ推進課の小木さん

議論をすべて「見える化」し、全社員で共有する

―方針の策定に至るまでに、どのような議論があったのでしょうか?

一條:サステナビリティ方針を改定するにあたって、まず役員の間で「なぜ、わたしたちはサステナビリティに取り組んでいくのか」という前提条件や与件について、複数回のワークショップを通じて議論を重ねました。

工夫した点として、社員も議論に参加できるよう、このワークショップの様子を同じタイミングで、社員に配信・共有しながら進めたことです。新しい試みでしたが、視聴した社員からは「役員の考えが良く理解できた」と大変好評でした。また、配信のたびに社員へのアンケートで意見を集約し、その結果を次の役員ワークショップのテーマとして取り上げるということを何回も行いながら、全員で作り上げていくプロセスを大切にしました。社員からは「サステナビリティと業務との関連が分からない」「施策や目標レベルではなく、根幹となる「Why?=なぜ、サステナビリティを推進していくのか」が理解できるようにするべきだ」といった声があり、それらの意見を反映しながら、サステナビリティ方針を作り上げていきました。

「サステナビリティに取り組む大義は何か?受託者責任との関係は?」についてのディスカッション風景の画像
「サステナビリティに取り組む大義は何か?受託者責任との関係は?」についてのディスカッション風景

小木:ディスカッション風景を動画で撮影して全社員に配信したことで、出来上がったサステナビリティ方針だけではなく、そのプロセスでどのような議論があったのかがよく伝わりましたし、役員の方々との心理的な距離がぐっと縮まったように思います。

一條:社員からの意見の中には、「ファンドの収益性の観点では、短期・長期双方のバランスが重要」「短期投資家も長期投資家もいる中で、サステナビリティ推進にかかるコストをどう考えるのか」といった声もあり、運用資金を預かる「受託者」としての責任をどのように解釈するのかというのも議論の大きなポイントでした。

―「受託者責任」という言葉はあまり馴染みのない言葉ですが、資産運用ビジネスでは日常的によく出てくる言葉だと伺いました。

一條:私たちは投資家の方々からプロとして資金を預かり、そのリターンを上げていくビジネスをしています。そのため、私たちには当然、預かった資金を適切に運用していく責任があります。これは「受託者責任」というもので、資産運用ビジネスを営む私たちに課されている義務です。

サステナビリティの取り組みとして、例えば物流施設の屋上に太陽光パネルを設置したり、二重サッシにして建物の断熱・遮熱性能を上げて、冷暖房にかかるエネルギー消費量を抑えたりするなどの取り組みを行っていますが、こうした取り組みはプラスでコストがかかるのも事実です。

このような状況で、「投資家から預かった資金でサステナビリティの取り組みを行うと、短期的にはリターンが下がるのではないか」という疑問も生まれてきます。当然、私たちは不動産運用のプロとして投資家へのリターンを最大化するためにその手腕を発揮していかなければいけません。しかしその一方で、環境対応に投資していくということは、わたしたちの地球環境を保全していくことにつながるため、長期的には地球の一員であるわたしたち自身、投資家の方々やユーザー、社会にとっての価値(リターン)につながる投資だと言えるのです。

このように受託者責任には、長期的な視点でお預かりした資金を適切に運用することで、サステナブルな社会を作っていく責任が含まれており、サステナビリティの推進は受託者責任に含まれるものだという結論に至りました。

野村不動産投資顧問株式会社 運用企画部サステナビリティ推進課の一條さんの画像
野村不動産投資顧問株式会社 運用企画部サステナビリティ推進課の一條さん

小木:運用ファンドにおいては、以前、投資家向けのサステナビリティイベントを開いて、サステナビリティの取り組みに必要なコストを開示したことがあります。どのような反応があるのか不安だったのですが、蓋を開けてみると取り組みに対しての否定的な意見はほとんどなく、むしろ好意的な反応を示していただいたのが印象的でした。取り組みの意義を自分たちで考え、一貫したストーリーを発信していくことが、ステークホルダーの理解を得るうえで最も大切なのかなと思っています。

ステークホルダーの概念図
ステークホルダーとの連携を通じて、豊かな未来を目指す

社員を起点にさまざまなステークホルダーへ、仲間を巻き込んで豊かな未来をつくる

―これから事業を通じて、どのようにサステナビリティを推進していきたいですか?

小木:サステナビリティ方針を考え直す経緯にもあったように、外部要請にただ従っているだけでは取り組みは持続していきません。その意味で、今回、受託者責任について深く議論できたことで、当社ならではの社会的価値の創出のあり方を社員自身が考えるきっかけになったのではないかと思います。

運用不動産では、先ほどご紹介した太陽光パネルや二重サッシのような環境面での対応に加え、地域イベントの実施や防災対策など、社会面においても、さまざまな取り組みを実施しています。そうした一つひとつの取り組みを点として捉えるのではなく、それが社会にとっての価値、そして、さらには不動産投資市場の活性化につながることを信じて、わたしたち一人ひとりが考え、行動するという好循環を生み出していきたいですね。

ここまで、野村不動産投資顧問社がサステナビリティ方針に込めた想いやその策定プロセスについてのお話をお届けしました。後編では、社員が職場で取り組むサステナブルアクションのための仕組みづくりについて伺っていきます!

一條さん(左)、小木さん(右)の画像